『啄木鳥探偵處』第5話「にくいあん畜生」感想です。
前回あらすじ
浅草を牛耳る澤山六郎に凌雲閣の12階に出現する着物姿の幽霊の謎を解いてくれと依頼を受ける。啄木は山岡という旧友に出逢った。啄木は幽霊騒ぎをずっと報じていたのが、山岡の勤めていた毎朝新聞だったという事実から、彼が幽霊騒ぎの発端で、幻灯を使って出現させているのではと推理する。ある日、幻灯師・小磯松吉が殺された。彼の左手に握られていた新聞記事を手掛かりに、啄木は六郎が犯人だと推理。誘導尋問によって自白を引き出した。山岡はかねてから、恋人を亡き者にした犯人への復讐を望んでおり、自分もろとも六郎を凌雲閣の12階から突き落とした。
5話あらすじ
萩原朔太郎は、横井季久という女給に恋い焦がれていた。吉井勇にそのことを相談するが、彼も同じく季久のことを好いていた。そこに野村胡堂も現れる。彼も季久には好感を抱いていた。そこで文人らしく、歌で想いの強弱を評価しようと考える。
そこにさらに若山牧水も加わった。彼も季久には悪からず思っており歌を披露する。4人で議論を繰り返すうちに、牧水は酔い潰れてしまった。朔太郎は勇の歌が最も優れていると感じ、彼の歌を勇からと、季久に送った。しかし、季久には既に婚約者がいたのであった。
啄木は華ノ屋のおえんの元へ通った。彼の目的は寝ることだけではなく、おえんに結婚相手を紹介することでもあった。後日、おえんは下宿先を訪れ、啄木と京助に別れを告げ、啄木に餞別を渡した。
おえんは、啄木の斡旋した男のもとに嫁ぐことになったのだ。男から金銭を受け取り、啄木を好いていたおえんに男を当てがった啄木に、京助は軽蔑し絶交を言い渡すのだった。
日常回っぽい雰囲気
今回はミステリーらしいところは特になく、朔太郎や牧水などの日常に焦点を当てたエピソードと、啄木とおえんの関係のエピソードという日常回っぽい雰囲気で構成されていた。一応、内本汽船(漢字不明)の御曹司が逮捕され、さらに金をもらっていた政治家が逮捕されたという話題が挿入されていたが、これはメインの荒川銅山事件に関連するものと考えられる。
若山牧水は史実の人物も酒豪であったので、そのキャラクターが反映されている。作中にあった「山を見よ 山に日は照る 海を見よ 海に日は照る いざ唇を君」という短歌は牧水の作である。いい歌だなと思った。歌自体はいろんな解釈ができそうだけど、歌のテンポ感がいいし、牧歌的な雰囲気だったのが急に恋人の唇を求めるところの落差がドラマチック。
また他にも様々な作品が引用されていた。例えば、冒頭の「黒船の加比丹を、紅毛の不可思議国を」は北原白秋の『邪宗門秘曲』から。「まっくろけの猫が二匹 なやましいよるの家根のうえで」と「とおい空でぴすとるが鳴る またぴすとるが鳴る」はどちらも萩原朔太郎の『猫』と『殺人事件』から引用されていた。特に後者の詩は作品にぴったりだと感じた。文豪の名作に触れるきっかけができるのは良い仕掛け。
一方で、啄木とおえんのエピソードはどうも好きになれない。実はこれも似たようなエピソードが史実にあって、釧路の小奴という芸妓に別の男の妾となれと言ったという話が伝わっている。まあ史実の啄木自体がどうしようもないクズなので仕方ないのだけど。また京助も、毎回絶交するだの愛想を尽かすだの言っていて、情緒不安定すぎやしないかと思う。
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