『啄木鳥探偵處』第6話「忍冬(すいかずら)」感想です。
前回あらすじ
萩原朔太郎は横井季久という女給に恋をしていた。吉井勇も同じく彼女に恋をしており、若山牧水も加わって、文人らしく歌で想いの強弱を競うことに。朔太郎は勇の歌に感銘を受け、季久に送ったが、彼女には既に婚約者がいた。啄木は華ノ屋のおえんを訪ねる。彼の目的は寝ることだけではなく、結婚相手を紹介することでもあった。おえんは啄木に恋愛感情を抱いていたが、後日、彼女は啄木の斡旋した男のもとへ嫁ぐのだと別れを告げた。おえんの想いを蔑ろにした啄木に京助は軽蔑し、絶交を言い渡すのだった。
6話あらすじ
橘屋乙次郎という役者が殺されるという事件が発生した。彼の上には金銀花という人形が重なっていて、人形が殺人を犯したと街中で話題になった。容疑者として逮捕されたのは、役者の結城扇雀であった。扇雀は自白もしているのだが、季久の婚約者であり、吉井勇は季久に扇雀の冤罪を晴らしてくれと頼まれる。偶然居合わせた啄木と一緒に事件の解決に乗り出すことになった。
勇は金銀花が展示されている傀儡館の店主を怪しんでいた。店主が金銀花の姿に変装して、客集めの話題作りをしていると考えた。啄木は季久に真犯人が分かったので午前3時に傀儡館へ来るように手紙を出した。
午前3時。啄木は乙次郎が人形に対する偏執的な情熱があったこと、そして季久が義眼であることから、乙次郎が季久に行為を迫り、季久はそれに反撃した結果だと推理した。扇雀は季久をかばって自白をしていたのだ。その推理は正しく、季久は啄木と勇を口封じしようと襲い掛かった。
万事休すと思われたそのとき、後をつけていた京助が大声を出し、季久を怯ませることに成功。季久は逮捕されることになった。
金銀花事件
ある人物が殺害され、それと折り重なるように人形が倒れていて、その人形が噛んで殺害したのではないかという事件。季久が婚約者を救うため、人形が犯人だと証明してくれと頼む謎は魅力的だし、犯行現場のビジュアルも鮮烈なのだが、その解決は少し残念なものだった。
季久が犯人だというの結末自体は意外性がないとは言えないが、そこに至るまでの推理が粗く、ほとんど推測にすぎないのが一番残念。乙次郎は人形に偏執的な愛情を示しているから、義眼の季久にも迫ったのではないかと考えるのは飛躍が過ぎているように思う。『虚構推理』のように、嘘の推理を並べて立てて、季久の婚約者を救い出すという展開だったら、もっと面白くなったと思うけどなあ。
ただ、この話のメインどころは推理ではなくて、季久と扇雀の愛情にあるのだとは思う。実際に季久は乙次郎殺しに関しては、いわゆる正当防衛だったのだから情状酌量の余地はあった。しかし、そのあとに真実を知った啄木と勇も亡き者にしようとしたのは、話の流れ的にも良くなかったのではないか。季久が追い詰められれば、殺人も辞さない人間だということを如実に示しているので、乙次郎も流石に彼女をもう擁護できなくなってしまう。恋人が殺人を犯すことを厭わない人間だとわかったら、いくら愛情が深くても愛想を尽かしてしまうだろう。
鬼気迫る季久の表情は見ものではあったけど、愛情の深さをテーマにするのなら、季久は真実が明るみになったら自首すべきだったと思う。まあそもそもを言えば、婚約者が冤罪で捕まった時点で本当に彼のことを愛していたのなら、自分の口から真実を語るべきだとは思うが、それを言い出すと物語にならないので、そこは仕方ない。
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