『啄木鳥探偵處』第12話(最終回)「蒼空」感想です。
前回あらすじ
誘拐された子供の捜索を頼むという依頼が舞い込んできた。誘拐されたのは成田屋の子供で、誘拐事件は町内で5回目だったが、いずれも数日後に子供は戻っていた。成田屋には三百円の身代金を要求する脅迫状が届く。胡堂の活躍で犯人を逮捕するも、犯人は誘拐事件に便乗しただけで真犯人ではなかった。便乗犯の話では、過去に成田屋にはお蝶という妾がいて一方的に縁を切っていた。お蝶は結婚し子供を身篭ったが、夫は先日殺され、殺害時に牡丹の花札を握り締めていたという。花札から殺人犯はお蝶だと啄木は推理。さらに一連の誘拐事件は、お蝶の子供と成田屋の子供を入れ替えるための準備であった。
12話あらすじ
啄木は告発者Xの正体を追っていた。告発状が絡んだ殺人事件はこの2年間で13件も発生しており、啄木はすべて同一人物の仕組んだ犯行ではないかと予測していた。
啄木は教会が怪しいと睨んで足を運ぶと、ステンドグラスを割ってしまって泣いている子供を尻目に、怪しい人物が告解室から出てくる。京助はその人物を尾行し、成瀬という車夫であること、そして高利貸しの村川という人物を狙っていることを突き止める。ところが啄木は成瀬を告発するどころか、朔太郎らも参加する宴に呼んで杯を交わすのだった。啄木は彼は唆されただけだと見抜き、彼を説得しようと牛鍋を食わせてやったのだ。
啄木は、偶然加世の下駄に挟まったステンドグラスを発見し、彼女が真犯人であることを知った。教会で告発すると、加世は犯行を認め、巨悪を滅ぼすために告解室に来た人物に教唆していたのだった。加世は幼い頃に家庭環境でトラウマを抱えていた。加世は地元である盛岡へと帰郷し、啄木から送られた「不来方の」の歌を口遊ぶ。
数十年後、京助は再び下宿先を訪ねた。彼は、生前の啄木が読んだ歌をまとめた歌集『悲しき玩具』を啄木の部屋に置いた。
告発者Xは加世
1話から謎として提示されていた告発者Xの謎が最終話で解かれた。連作短編のような体にはなっているものの、特に今までのそれぞれの短編が謎の伏線になったり、密接に絡んでいたり、ということはなく、今回出てきた下駄に挟まったステンドグラスという手掛かりだけで犯人へと辿り着いたので、少し拍子抜けではあった。加世が教会で炊き出しを行っているということや、環を紹介したということが一応伏線にはなっているだろうか。
こういう類のミステリーは最初の方から出ている人物が犯人だというセオリーがあるので、加世は怪しい人物ではあった。意外性を重視して、京助が真犯人なのかなとも思っていたが、流石にそんなことはないよなあ。
加世のやった行為は法律的には殺人教唆に当たるのだろうか。しかし直接的に唆していないのならば罪に問われることはないのかもしれない。幼少期のトラウマが原因で、しかも悪を成敗するためにやっているということで、彼女にも同情の余地はあると思う。個人的には、歪だとしても正義感がある人物は好きなので、加世のことは嫌いにはなれないな。独善的な正義感は、ときに凄惨な事件を引き起こしてしまいかねないものではあるけれども。
啄木の死そのものは描かれずに、最後は暗示するだけで終わった。余韻が残る終わり方で悪くなかったと思う。『悲しき玩具』に関しては京助がまるで編纂したかのような演出になっていたが、実際は土岐善麿という啄木の友人が編纂した。
全体を通しての感想
原作が創元推理文庫の小説なので否応なしに期待したが、ミステリーとしては率直に言って微妙だった。謎は魅力的でも、推理というよりも想像で犯人を指摘したり、推理に甘い部分があったりしたのが気になった。ミステリーとしてのプロットで言えば、江戸川乱歩の原作のオマージュだった7話から9話の方が良かったかもしれない。ただミステリー要素はトッピングというか隠し味的なもので、啄木と京助の友情がこのアニメの主軸だろう。
その主軸たる啄木と京助の友情物語の方だが、こちらは10話のように感動させられるシーンはあったものの、啄木のあまりのクズっぷりと京助の女々しさに、若干というかかなり辟易してしまったのはある。やっぱりキャラクターを好きになれないと視聴継続してもらうには難しいと思うので、この2人が主人公というのは、アニメに他に光る部分がないと厳しい。
むしろ朔太郎と勇の友情の方がサバサバしてて爽やかで好きだった。身も蓋もないが、この2人が主役だった方が人気が出たんじゃないかとすら思ってしまう。ただ、啄木という歴史上の文豪を変に美化して描くのではなく、素直に描いたのは評価したい。啄木はこんな人間だというのを知っている人は意外と少ないと思うし、これをきっかけに興味を持つ人もいると思う。
作画も比較的安定していたと思う。後半は啄木のやつれっぷりがあまりに痛々しかった。背景も綺麗で、桜や夕焼けなどシーンに応じて効果的に使っていた。またアニメオリジナルのキャラクターもオマージュを巧みに取り入れて、元々の原作と高いレベルで融合させていたと思う。アニメオリジナル要素を取り入れたせいで、逆にストーリー上の矛盾が発生した箇所もあったので、それは残念。
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