映画『天気の子』を見てきた。爆発的にヒットした『君の名は』の新海誠監督の最新作ということもあって、公開前には多数のメディアで取り上げられるなど注目度の高いアニメ映画になっている。
それで見に行ったのだが、どうも微妙だった。『君の名は』のようなヒット作になることはまずないと思われる。多分『トイストーリー4』にも負けるのではないだろうか。
あらすじ
ずっと雨続きの東京。田舎に嫌気がさして家出してきた森嶋帆高は東京でアルバイトを探すも、身分証もないため仕事がも見つからず、なけなしの所持金を切り崩し、ネカフェやマクドナルドで生活する日々が続いていた。
そんなとき、マクドナルドでアルバイトしていた天野陽菜にビッグマックを差し出される。それが陽菜との出逢いだった。帆高は東京に向かう船上で知り合った須賀圭介を頼り、事務所を訪ねそこで住み込みのアルバイトをすることに。
一心不乱に働く帆高の前に陽菜が再び姿を現す。陽菜はチンピラに絡まれていて帆高は助けようとするのだが、その際に、道端で拾っで処遇に困っていた拳銃を発砲してしまう。陽菜は助けることができたが、これによって警察に狙われることになってしまった。
陽菜はバイトをクビになって仕事を探していた。そして帆高は陽菜が祈ると必ず晴れになる100%晴れ女であることを知る。帆高はこの力を利用して金儲けをしようと考える。
100%晴れ女の評判は瞬く間に広がり、依頼が殺到するようになる。ところが、ある日警察が陽菜の家を訪ねてくる。警察は拳銃を所持している帆高の所在と未成年で弟の凪と暮らしている陽菜を保護しようとしていた。また須賀も未成年略取の容疑で警察の取り調べを受けていた。須賀や陽菜は帆高に田舎に戻るように告げるが、帆高は陽菜と一緒にいることを望んだ。
帆高と陽菜そして凪の3人は警察の追っ手から逃げるために夜の東京を駆ける。東京には真夏にも関わらず雪が降っていた。ホテルに入りしばしの休息を得る3人だったが、その夜、陽菜から自分のせいで東京に雨が降っていること、自分が消えれば晴れが戻ること、そして晴れを祈りすぎたためにもうすぐ消えそうになっていることを告げられる。
帆高は陽菜と一緒にいることを望んだが、翌朝陽菜の姿は消えていた。そして帆高は警察に逮捕されてしまう。陽菜を救出するために、隙を見て帆高は脱走。須賀の姪である夏美の手助けもあり、陽菜が晴れ女になった廃ビルへと辿り着く。
ところがそこに須賀が現れる。須賀は帆高を説得するが、帆高は聞かず、乗り込んできた警官に対して銃で威嚇する。その陽菜に対する想いの強さに感化され、須賀も帆高に加勢。駆けつけた凪も援護し、ついに廃ビルの屋上へと辿り着く。
雲の上に飛ばされ、そこで陽菜と再会する。帆高は世界がどうなってもいいから陽菜と一緒にいたいという思いを告げ、東京に帰ってきた。東京はそれから3年間、雨が降り続き、ほとんどの陸地が水没してしまった。
帆高は田舎で高校を卒業した後、再び東京を訪れる。そして晴れ女の力を失ったものの、それでも祈り続けている陽菜に再び出逢うのだった。
作品を支配する雨
作品中のほとんどのシーンは雨である。『君の名は』は陽のイメージだったのに対して、『天気の子』は陰のイメージなのは多分監督が意識的にやっているのだと思うが、キャラクターが割と明るいので鬱々とした映画ではない。雨のシーンが多いが、新海作品だけあって背景は美しい。東京の街並みが細かく再現されていて、東京在住の人はなお楽しめる。
陽菜が100%の晴れ女といういわば天候を操れる少女で、よくアニメの表現にあるように、天候と陽菜の感情がリンクしているのだろう。東京に大雪が降ったときが陽菜の不安も最高潮だった。
世界と私どっちが大事なの?
『天気の子』はいわゆるセカイ系の類型のアニメである。セカイ系とは君と僕とのローカルな関係が世界の存続や危機などのグローバルな問題に直結しているようなアニメで、『涼宮ハルヒの憂鬱』や同じく新海誠監督の『ほしのこえ』などが例として挙げられる。
しかし、この類はヒロインとの関係が失われるが世界は救われるか、ヒロインとの関係も良好で世界も救われるというものが多いが、『天気の子』ではヒロインを救うためなら世界なんかどうだっていいという結末になっている。この結末自体には賛否両論ありそうなのだが、私は嫌いではない。嫌いではないのだけれど、描き方が好きではなかった。
最後に東京が水没するのだが、誰かが犠牲になったとかそういう話は全くなく、水没してもみんなが平気な顔して暮らしている。悲壮感が全くない。私は世界と私どっちを選ぶの?で「私」を選んだのであれば、もっと多数の人間が洪水によって犠牲になるとか、そういう罪が存在しないとダメだと思う。
この結末では、多数の人間が犠牲になるかもしれないというのと陽菜を天秤にかけて、陽菜を取ったという事実がものすごく弱く感じる。帆高もそこの部分の葛藤はほとんどないので、若気の至りが暴発しただけのような感じになってしまっている。よく考えずに欲望に従ったら東京水没させちゃったてへぺろでもいいし人間らしいと言えばらしいのだが、その場合でも罪悪感を持たないと、ただ性格が破綻しているようにすら思える。
あまつさえ「東京はもともと海に沈んでたから」とか「お前が世界を変えたなんて自惚れるな」なんて言い訳っぽいことまで言わせていて、全く逆だと思う。むしろお婆ちゃんは帆高を責めなければいけない。もし私だったら『宇宙戦士バルディオス』のような結末にする。
なぜこういう結末になっているのかと考えたのだが、やっぱり商業主義的にはこっちの終わり方の方がウケがいいのかなと思う。バッドエンドじゃ何回も観たいと思う人も出てこないだろうし、救いがないと観ている人も辛い。だけど今のままではなんだか中途半端だと感じる。
ハッピーエンドならいっそのこと陽菜の感情が天気にリンクしていることをそのまま使って、帆高が連れ戻しにきたら幸せになったので晴れになりましたくらいの陳腐で単純明快な方がむしろ受け入れられた気がする。まあこれを友人に話したら、それもつまんないと一蹴されたが。
本田翼の演技
本田翼が主要キャストの声優をやっていて、不安に思ってる人も多かったと思うが、ちょっと気になる部分はいくつかあったが、全体的には上手かったと思う。主役の帆高と陽菜も声優ではなく俳優が声を当てているが、これは全く違和感がなくむしろ声優より上手いんじゃないかと思う。そりゃ映画で声優使われなくなるわな。
凪の声優(吉柳咲良)に至っては15歳だし、しかも芸能界に入ったのが3年前ということで凄いなと思う。事務所もホリプロなので、ぜひ声優としても活動してほしい。
まとめ
映画館に入ったときにすごい晴天だったんだけど、映画館から出てきた時は大雨になっていて、ああ陽菜が助かったんだなと正直その瞬間が一番感動してしまった。
陽菜がマクドナルドをクビになったのは中学生だとばれたからとか、警察が保護しにきたときに未成年と言ってたのはミスリードだったのかとか、ここで気付いたことを全部は言わないが、伏線が色々貼ってある映画で、2回目を観るのもいいかもしれない。
どうでもいいけど、私が『天気の子』で一番好きになったのは凪先輩で、めちゃくちゃかっこよかった。ぜひ私にも恋愛テクニックを教授してほしい。31歳の女性との接点が全くないおっさんでも大丈夫かな。帆高と陽菜でも大丈夫って言わなそう。
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